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名古屋高等裁判所 昭和60年(ネ)74号 判決

控訴人 松田新吉こと

揚國變

右訴訟代理人弁護士 北澤恒雄

被控訴人 日本国有鉄道

右代表者総裁 杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士 水口敞

右訴訟代理人 毛受康彦

〈ほか一名〉

被控訴人 中部国鉄用品運輸株式会社

右代表者代表取締役 堀内章

右訴訟代理人弁護士 斉藤重也

同 佐脇敦子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人らは控訴人に対し、各自金四六六万三、〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

仮執行宣言。

二  被控訴人ら

主文同旨。

第二当事者の主張

当事者双方の事実上、法律上の主張は、次に付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

執行方法が違法であって国家賠償責任が問題となる場合であっても、右執行行為に関与した債権者に、一般不法行為の要件が具備する限り、これに対して不法行為責任が認められるべきである。そして被控訴人日本国有鉄道は債権者としての利益に基づいて従業員を派遣し、被控訴人中部国鉄用品運輸株式会社は被控訴人日本国有鉄道と請負契約を締結し、その営業活動として従業員を派遣したもので、右従業員らの活動が一面において執行官の指示によるものであっても、他方現実の執行行為は一切被控訴人らの人的物的資材とその判断によって行われており、本件損害は右従業員らの過失によって生じているのであるから、被控訴人らは使用者としての不法行為責任を免れえないというべきである。要するに、被控訴人らの従業員の行為によって生じた損害が国家賠償によって救済されうるか否かと、被控訴人らが使用者として従業員の一般不法行為による賠償責任を負うか否かは別の観点から考えるべきであって、両者の関係は共同不法行為として不真正連帯債務を負うものと解すべきである。

(被控訴人らの主張)

代替執行における執行行為は、国の公権力の行使に当る公務員の職務行為であり、この行為により損害を蒙ったものは、国家賠償法により賠償請求できるに過ぎない。被控訴人らの従業員は、右代替執行の実施主体たる執行官の執行補助者として、専らその指揮監督のもとに執行行為に関与したものであるから、右従業員らの行為は公権力の行使としてなされたものであり、使用者の事業の執行につきなされたものとはいえず、被控訴人らが使用者責任を負うことはありえない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は、理由がないから失当としてこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は次に訂正、付加するほか原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)  《証拠訂正省略》

(二)  同四枚目裏末行の「二一名をして」を「二一名を執行補助者として」に、同五枚目表初行の「搬出させた」を「搬出した」にそれぞれ改める。

(三)  同五枚目表九行目から同裏一〇行目までを以下のように改める。

「そして、国家賠償法一条の「公務員」とは、同法の目的に照らし、単に組織法上の公務員たるにとどまらず実質的に公権力の行使たる公務の執行にたずさわる者を広くいうものと解するのが相当であるから、この点からみると、債権者の委任を受け、国の公権力の行使として代替執行を行った執行官の執行補助者として、執行行為たる本件搬出行為にたずさわった被控訴人らの前記従業員らも、右執行補助者としての行為に関する限り、同法条にいう公務員というに妨げないものというべきである。ところで、公権力の行使に当る公務員がその職務を行うについて他人に与えた損害については、国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人(この場合の公務員を組織法上の公務員にのみ限定すべきいわれはない)はその責任を負わないものと解せられる(最高裁昭和二八年(オ)第六二五号同三〇年四月一九日第三小法廷判決民集九巻五号五三四頁参照)から、被控訴人らの前記従業員らも、その故意過失を問わず、そもそも賠償責任を負わないものといわなければならない。」

(四)  同六枚目裏五行目から七枚目表三行目までを次のように改める。

「(3) のみならず、《証拠省略》によると、本件搬出物件の搬出時の計量の正確性については少なからぬ疑いが存し、また、空気遮断器は機械本来のものとしての残存価値が殆んどないことが認められる(《証拠判断省略》)のであって、このことからすると控訴人主張の損害の発生自体が認め難いというほかはない。」

二  控訴人は、被控訴人らは国家賠償とは別個に一般不法行為による使用者責任を負い、両者の関係は共同不法行為として不真正連帯債務を負う旨主張するが、国家賠償法一条の適用される場合には、民法の不法行為の規定の適用は排除されるものと解されるから、控訴人の右主張は採用の限りでない。

三  よって、右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 西岡宜兄 喜多村治雄)

〈以下省略〉

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